九州南部、宮崎県から鹿児島県にかけて連なる霧島連山。その最高峰である「韓国岳(からくにだけ)」の裾野に広がるのが「えびの高原」です。宮崎県を代表するスポットであるえびの高原は、何よりも自然の息吹を感じられるその景観が特徴といえるでしょう。
今回は、そんなえびの高原に広がる3つの火口湖を巡るトレッキングコースを実際に歩きながら、大勢の人々に愛されるえびの高原の魅力に迫ります。
日本初の国立公園に位置する「えびの高原」
えびの高原があるのは、宮崎県南西部にある「えびの市」の南。一帯は日本初の国立公園である「霧島屋久国立公園」(現在は「霧島錦江湾国立公園」)の一部にもなっており、宮崎県を代表するスポットのひとつとして、年間70万人に近い観光客が訪れている人気観光地です。
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えびの市のすぐ隣には、熊本県の人吉市や鹿児島県の霧島市があります。周辺の道路は「霧島バードライン」や「えびのスカイライン」として整備されているため、熊本や鹿児島から、県境をまたいだドライブで訪れる人も少なくありません。豊かな自然を抱えるスポットながら、複数の県からアクセスしやすいのも人気の理由のひとつなのでしょう。
駐車場には県外ナンバーの車も多い
火山活動が生み出した絶景スポット
えびの高原の特徴は、なんといっても火山地帯ならではのダイナミックな景観。
特に散策をする際にぜひ立ち寄りたい3つの池(湖)「白紫池(びゃくしいけ)」「六観音御池(ろっかんのんみいけ)」「不動池」は、いずれも丸い形をしており、それぞれがかつての噴火口だったことを思い起こさせます。
もちろん登山ならではの山頂からの絶景も楽しめます。白紫池近くにそびえる標高1,363mの「白鳥山(しらとりやま)」山頂からは、霧島連山最高峰の「韓国岳(からくにだけ)」に加え、鹿児島のシンボル「桜島」を眺めることもできるんです。
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火口湖が点在するダイナミックな地形
えびの高原を携える霧島連山の火山活動は現在も活発です。宮崎県と鹿児島県にまたがるこの自然豊かな山々には、「新燃岳(しんもえだけ)」や「御鉢(おはち)」のように現在も噴火を繰り返す火山が。
えびの高原内の不動池の近くにある「硫黄山(いおうやま)」周辺や、えびの高原へ向かう県道のすぐ側でも立ち昇る水蒸気を目撃したり、硫黄の匂いを嗅いだりできます。もちろん火山地帯に入る以上、情報収集など安全面への配慮は常に必要です。それでも、「生きている地球」を肌で実感できるという点で、えびの高原はとても魅力的な場所といえるでしょう。
えびの高原周辺は現在も活発に活動する火山地帯
トレッキングから本格登山まで
えびの高原では「えびのエコミュージアムセンター」を起点としたトレッキングコースや登山道が設定されています。このうち3つの火口湖を周遊する「池めぐりコース」は、2時間程度の所要時間に加えて起伏もそれほどないため、カップルや家族連れにも大人気。
本格的に登山をしたいなら、標高1,700mの韓国岳登山もおすすめです。本格的な登山といえども、行程は往復3〜4時間程度。日帰りで訪れても十分に楽しめます。
※2019年10月現在、霧島山の火山活動の活発化に伴い「池めぐりコース」は不動池からの折り返しになっています。また不動池周辺からの登山道も閉鎖されているため、韓国岳登山の際は規制区域に入らないよう注意してください。えびの高原周辺の規制の情報はこちら。
本格登山者向けの登山届ポスト
絶景の「えびの高原」を歩いてみよう!
えびの高原の自然は堪能したいけれど、本格登山はちょっと…という人は、ぜひ「池めぐりコース」にチャレンジしてみてください。今回はライター自らが実際にコースを歩いて、見どころや注意点について紹介していきます。
※2019年10月現在、「池めぐりコース」は不動池での折り返しになっています(全線復旧の時期は未定)。
今回、ライターが歩いた高原ルート
1. まずは「白紫池」を目指そう!
「池めぐりコース」の出発点は「えびのエコミュージアムセンター」。駐車場に車を停めたら案内表示に従ってコースの入り口を目指します。コースの途中にはトイレがないので、あらかじめ駐車場近くでトイレを済ませておきましょう。
えびのエコミュージアムセンターがコースの起点
アスファルトの小径を数分歩くと、コースの入り口に到着します。コースの最初は天然の石と砂利で整備された階段。ゆるやかで歩きやすいとはいえ、しばらくは登りが続くので歩くペースに気をつけて。
コースの始めはゆるやかな階段から
木立の中を5分ほど登っていくと、急に視界が開けます。ここは「えびの高原展望台」という場所で、韓国岳を中心にえびの高原周辺の山々を見渡せるビュースポットです。ベンチやテーブルも置いてあるので休憩にもぴったり。
見晴らしの良いえびの高原展望台
最初の目的地「白紫池」まではほとんどが登りです。通路は基本的に整備されているものの、途中、不規則な自然石がゴロゴロしている登り坂もあるので足元に注意してください。
コース上には大小さまざまな石が転がる場所も
えびの高原展望台から約30分ほど歩くと白紫池に到着です。コンクリートの護岸と金属の柵が共存しているのは少し妙な雰囲気ですが、これは白紫池が天然のスケートリンクとして使われていた時の名残だそう。
白紫池の湖畔
護岸越しに覗くと、水底まで見える広々とした池が続いています。水深は約1m程度と浅く、寒さが厳しい冬は湖面が凍結するそうです。昭和初期〜1980年代まではスケートリンクとして営業していましたが、年々氷の厚みが薄くなっているとのことで、残念ながら今ではスケートを楽しむことができません。
かつてはスケートリンクとしての利用も
2. 「白鳥山」から絶景パノラマを楽しむ
隣にそびえる浅い火口を持つ「白鳥山」からその様子を眺めることで、姿形から白紫池が火口湖であることを実感できます。白鳥山へは、えびのエコミュージアムセンターから白紫池へ向かうルートの途中に「白鳥山/二湖パノラマ展望台」への分岐点があるので、そこから登っていきましょう。
白鳥山への入り口
分岐点から5分ほど登ると「二湖パノラマ展望台」があります。ここは白紫池と六観音御池のふたつを同時に見渡せる絶景スポットです。ちなみに展望デッキと東屋は2019年10月に新しく整備されたばかり。
2つの池を一度に見渡す「二湖パノラマ展望台」
二湖パノラマ展望台から先は、人ひとりが通れる幅の、けもの道のような細い登山道が続きます。
けもの道のような細い道が続く
白鳥山の山頂に近づくと、ぽっかりと視界が開けます。大小さまざまな石が転がる斜面(ガレ場)は意外と歩きにくいので、うっかり転ばないよう足元に注意してください。
山頂付近のガレ場
二湖パノラマ展望台から15分程度で白鳥山山頂に到着です。えびのエコミュージアムセンターとの標高さは160mほどで、周囲に視界を遮るものがほとんどないため韓国岳の全体や周囲の山々をはっきり見渡せます。
白鳥山の山頂
そしてなんといっても絶景なのが、ここから見下ろす白紫池の姿。切り立った斜面にぐるりと囲まれた丸い形は、水深1mの浅い池といえども、立派な火口湖ということがわかります。自然の息吹を感じる景観が目の前に広がります。
白鳥山山頂から見下ろす白紫池
白鳥山山頂から10分ほど下ると、白鳥山北展望台があります。ここから見えるのは2つ目の火口湖「六観音御池」の姿。さらに急な斜面や階段を5分ほど下っていくと、本来の「池めぐりコース」に合流します。
六観音御池を見下ろす白鳥山北展望台
3. 「六観音御池」でちょっと一息
白紫池から六観音御池までは、ゆるやかな下り道。ステップの広い階段は丸太と土で作られていて、足への負担もそれほどありません。
木立の中を下っていく
白紫池から15分ほど歩いたところにある巨大な杉の木。樹齢は約500年といわれており、その存在感は圧倒的です。屋久島のヤクスギにも似ていますが、実は霧島神宮にある杉の木と同じ種類なのだとか。神々しい幹に近づけば、パワーをもらったような気がします。
コースの途中には巨大な杉の木も
杉の木の少し先まで歩くと、木立の合間から六観音御池が見えてきます。えびの高原にある3つの池(湖)の中で面積が一番広く、水深は14mもあるのだそう。白紫池とは一味違う、雄大な眺めです。
火山の影響により水は酸性のため、湖面はコバルトブルーに。周囲には広葉樹と針葉樹が共生し、季節ごとに異なる美しい表情を見せてくれる湖です。
3つの中で最も面積の広い六観音御池
杉の木から5分ほどで、六観音御池のほとりに設置されたウッドデッキに到着します。ここはのんびり腰を下ろして休憩したり、お弁当を食べるのにもぴったりの場所です。疲れた足をしっかり休めておきましょう。
湖畔のベンチでのんびりと休憩
デッキの背後にあるのは「豊受神社」という小さな神社。以前は六観音の像を祀る仏堂であったことから「六観音堂」とも呼ばれています。明治に「宝珠神社」と改称してからも、毎年5月に「馬頭観音祭り」が開かれるなど、地域の人たちから親しまれています。自然の中に忽然と現れる鳥居の姿が、神秘的な印象を与えています。
湖畔に建つ六観音堂
4. 神秘的な雰囲気の「不動池」
六観音御池から「不動池」までの道のりにはそれほど大きな高低差はありません。比較的歩きやすい、なだらかな道が続くので周囲の自然を楽しみながら歩いていきましょう。
なだらかな道がしばらく続く
六観音御池から35分ほど歩いたところに、ススキの群生する一帯があります。実はえびの高原の「えびの」という地名は、火山ガスの影響で「えび色」に紅葉したススキから名付けられたのだそう。
えびの高原を象徴するススキ野原
ススキ野原から5分ほど歩くと不動池に到着です。水質はこちらも火山の影響により強い酸性で、光が乱反射するため時間帯によって湖面の色が変化します。えびのエコミュージアムセンターの須田さんによると「天気が良い日の昼過ぎにはコバルトブルーに見えるのでおすすめです」とのこと。
ここから20分ほど先に進めば、ゴール(えびのエコミュージアムセンター)に到着です。2019年10月現在は、通行規制の関係で元の道を引き返したためトータル3時間以上のトレッキングとなりましたが、日頃の運動不足がすっかり解消されて爽やかな気分を味わえました。「運動不足なので歩けるか心配」という人は、えびのエコミュージアムセンターで販売している竹製の杖(500円)を利用するのも良いでしょう。
深い色を有する不動湖
不動池のすぐ横には硫黄山、さらには韓国岳への登山口があります。本格的な登山を楽しみたい方はぜひ挑戦してみてください(2019年10月現在は火山活動の影響で閉鎖中)。
硫黄山登山口は現在閉鎖中
「えびのエコミュージアムセンター」でえびの高原を知る
環境省が管理する「えびのエコミュージアムセンター」は、えびの高原のビジターセンター。さまざまな展示を通して、えびの高原の成り立ちや地形の様子、えびの高原で見られるさまざまな自然について解説しています。
館内にはえびの高原に精通したスタッフが常駐するほか、環境省の自然保護館を補佐する「アクティブ・レンジャー」の拠点ともなっています。えびの高原の中はもちろん、活発な火山活動が続く霧島連山の最新情報も効率的に集めることができるでしょう。
気軽なドライブで訪れる人はもちろん、「池めぐりコース」のトレッキングや韓国岳登山に挑戦するという人も、まずは立ち寄るべき施設です。
えびのエコミュージアムセンター
館内は天井が高く広々としています。さまざまな展示の中で特に注目なのは、えびの高原を中心とした地形模型。起伏に富んだ地形はもちろん3つの火口湖の形や位置関係も一目でわかるので「池めぐりコース」の事前学習や復習に使いましょう。館内中央には霧島の自然などを紹介する映像資料があり、えびの高原や霧島連山について理解を深めることができます。
開放的な空間に展示物が並ぶ
えびの高原に生息する野生生物の展示では、普段あまり目にすることのできない標本も観察できます。ちなみに「池めぐりコース」では昼間に森林の中で鹿と遭遇することが多いそうなのですが、今回の取材では鹿に出会えませんでした。
えびのエコミュージアムセンターでは、「バードウォッチング」やウォーキングイベントなどもときどき開催しています。タイミングが合えば、参加してみてはいかがでしょうか。イベントなどの最新情報は公式ホームページに掲載されています。
えびの高原に住む野生生物なども紹介
火山の力を感じられるトレッキングを
えびの高原は、自然の中を気軽にドライブしたい人からトレッキングで大自然を堪能したい人、さらには本格登山に挑戦したい人にもおすすめの絶景スポットです。
また、えびの高原はミヤマキリシマや、ここでしか自生しないノカイドウ等の花も見ることができ天然記念物に指定されています。四季折々に違った姿を見せてくれるので、2度、3度と楽しめるのも大きな魅力。南九州を観光する際は、ドライブのついでにぜひ立ち寄ってみてください。