「流しびな」って何?
現代の流しびな
流しびなの由来
流しびなと曲水の宴の関係
おもな「流しびな」の行事
【和歌山県和歌山市】淡嶋神社の雛流し
【京都府京都市】下鴨神社の流し雛
【埼玉県さいたま市】人形のまち岩槻流しびな
【鳥取県鳥取市】用瀬の流しびな
【山口県萩市】萩城下の古き雛たち・流し雛
【東京都台東区】江戸流しびな
おもな「曲水の宴」の行事
【福岡県太宰府市】太宰府天満宮の曲水の宴
【京都府京都市】城南宮の曲水の宴
【京都府京都市】北野天満宮の曲水の宴
【岩手県平泉町】毛越寺曲水の宴
【鹿児島県鹿児島市】仙巌園の曲水の宴
おわりに

3月3日の桃の節句に合わせて実施されることが多い「流しびな」の行事。流しびなは平安時代の貴族の遊びである「曲水の宴」と中国から伝来した「上巳の節句」などが起源と考えられています。

この記事では流しびなの由来や意味について詳しく見ていきましょう。各地で開催される流しびなと曲水の宴も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。(開催情報は随時更新)

TOP画像:淡嶋神社の流し雛
※本記事に掲載の情報は2024年2月時点のものです。諸事情により変更となる場合がありますので、お出かけの際は各公式サイト等で最新情報をご確認ください

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和歌山県 < 和歌山

お内裏様が向かって右の雛人形

ひな祭り(桃の節句)はもともとどんな行事だった? 由来・意味・食べ物・人形のこと 女の子の成長や幸せを願う行事であるひな祭り(桃の節句)。その起源、由来は中国のみそぎの風習でした。ここではひな祭りの由来や、ひな人形の歴史、なぜ〝桃〟の節句なのか、食べ物の意味など、ひな祭りにまつわる雑学をご紹介。

その他伝統・日本文化

「流しびな」って何?

「流しびな」は紙や草などでできた人形を流して厄払いをする風習が、願い事を託す行事に変わり、現代まで続いてきた行事です。流しびなはひな祭りの起源として、古来からある行事ですが、今も一部の地域で催されています。

現代の流しびな

現代の多くの流しびなは、和紙や紙粘土などで作った男女一対の人形と、願い事を書いた紙を藁で編んだ「桟俵(さんだわら)」という舟に乗せて川に流すという行事です。多くは3月3日に実施されています。

昔の流しびなは、自分や子どものけがれをはらい健康や幸せを願う行事でした。紙や土などで作った人形は、自分や子どもの身代わり。それに厄やけがれを移し、水に流すことで災いを免れようとしていたのです。

今はこのような厄払い的な意味合いは薄れ、願い事を人形に託して神様に祈る意味合いが強くなっています。

桟俵にのった紙人形

紙人形がのった桟俵

流しびなの由来

昔は「上巳(じょうし)の節句」に、草木や紙で作った人形(ひとがた)に子どもや自分のけがれや災いを移して川や海に流していました。「上巳」とは3月上旬の巳(み)の日のことを指します。川や海には、清らかな水の流れがあり浄化の力があると考えられていたため、季節の変わり目の病気になりやすい期間に無病息災を願って行われていました。

川の流れと桟俵

流れる水と桟俵

流しびなと曲水の宴の関係

曲水の宴(きょくすいのえん)は、流しびなの起源とされている行事です。中国から伝来した、みそぎの風習が日本に伝わり発展し貴族の間で発展しました。

「曲水」とは、庭園の中を流れる曲がりくねった小川のこと。曲水の宴とは、小川のほとりに複数人が座り、順番に和歌を詠む行事です。川の上流から盃が流されるので、宴の参加者は盃が自分の前を通り過ぎる前に和歌を詠みます。和歌を詠み終わったら盃を取りお酒を飲み、また川に流します。

仙巌園の曲水の宴

鹿児島県・仙巌園(せんがんえん)で催される曲水の宴(写真協力:公益社団法人 鹿児島県観光連盟)

中国では3月初めの巳の日に水辺でみそぎを行い、災いをはらう風習がありました。それが晋の時代に行事として発展し、みそぎの後に詩を詠み、お酒を飲んで災いを払うようになったのです。

日本には奈良時代に伝来し、平安時代には貴族の間で風流な催しとして発展。やがて曲水の宴は、けがれを人形に移して川に流す風習と合わさり、流しびなへと移り変わっていきました。

おもな「流しびな」の行事

流しびなは古くからある神事・行事ですが、町のイベントとして盛り上げているところもあります。近くで流しびなを開催している場所があれば、1年の無病息災を祈りに訪ねてみてはいかがでしょうか。

【和歌山県和歌山市】淡嶋神社の雛流し

淡嶋神社は安産や子授け、女性の病気回復の神様で知られています。3月3日正午より、全国各地から奉納されたひな人形を3艘の白木の小舟に乗せて海へ流す神事が行われます。淡嶋神社は全国から人形が集まる場所。ここから人形たちは神々の国に向かいます。

●開催日:2024年3月3日(日)
●時間:12:00〜
●場所:淡嶋神社(和歌山県和歌山市加太118)
●関連サイト:2024年3月3日 雛流し|和歌山市観光協会
※編集部しらべ

淡嶋神社の流し雛

淡嶋神社の流し雛(写真提供:公益社団法人 和歌山県観光連盟)

淡嶋神社の流し雛

送り出された船は静かに海上を進みます

【京都府京都市】下鴨神社の流し雛

下鴨神社では、3月3日に十二単のおひな様と束帯姿のお内裏(だいり)さまが桟俵に乗せた和紙人形を御手洗川に流す神事が行われます。神事の後は一般参加者も桟俵を流せます。受け付けは10:00から。10:30からはおひな様の十二単の着付けを見学できます。

●開催日:2024年3月3日(日)
●時間:受付 10:00〜/神事 11:00〜
●場所:下鴨神社(京都府京都市左京区下鴨泉川町59)
●関連サイト:流し雛【下鴨神社】|京都観光Navi下鴨神社
※編集部しらべ

下鴨神社の流し雛

下鴨神社の流し雛

下鴨神社の流し雛

川にはいくつもの桟俵が浮かべられます

【埼玉県さいたま市】人形のまち岩槻流しびな

「人形のまち岩槻流しびな」は、岩槻城址公園の菖蒲池周辺で10:00から行われます。開催日は、例年3月3日直前の日曜日。2024年は3月3日です。和紙でできた人形と願い事を書いた紙を桟俵に乗せて流します。

●開催日:2024年3月3日(日)
●時間:10:00〜14:00
●場所:岩槻城址公園 菖蒲池周辺(埼玉県さいたま市岩槻区太田3-4)
●公式サイト:人形のまち岩槻流しびな|岩槻人形協同組合

人形のまち岩槻流しびな

人形のまち岩槻流しびな ©︎STIB

【鳥取県鳥取市】用瀬の流しびな

用瀬(もちがせ)町では古くから旧暦の3月3日に紙製の一対のひな人形を桟俵に乗せて千代川に流していました。一般客も「流しびなの館」対岸で「ひな流し体験」ができます。周囲の民家ではひな飾りを公開しているので、ぜひ見学してください。

●開催日:2024年4月11日(木)
●時間:2024年の詳細は未確認
 ※2023年の「ひな流し体験」は11:00〜14:00でした
●場所:2024年の詳細は未確認 
 ※2023年は「ももがせ流しびなの館」駐車場(鳥取県鳥取市用瀬町別府32-1)等で桟俵の購入が可能でした
●関連サイト:流しびなの館
※編集部しらべ

用瀬の流しびな

用瀬の流しびな ©鳥取県

【山口県萩市】萩城下の古き雛たち・流し雛

「萩城下の古き雛たち」では2月からの2カ月間、江戸時代から受け継がれているひな人形1200体を萩市内で展示。最終日の4月3日10:00からは旧湯川家屋敷周辺の藍場川で流しびなが開催され、折り紙で作った人形を桟俵に乗せて流します。

●開催日:2024年4月3日(水)
●時間:10:00~
●場所:
 受付=旧湯川家屋敷(山口県萩市川島67)
 会場=藍場川(山口県萩市川島~江向)
●公式サイト:流し雛|萩市観光協会公式サイト
※編集部しらべ

萩城下の古き雛たち・流し雛

「萩城下の古き雛たち」の最終日に行われる流し雛(写真:萩写真データベースより)

【東京都台東区】江戸流しびな

3月3日に最も近い日曜日に実施される「江戸流しびな」は、1985年から始まりました。11:30頃、隅田川に掛かる吾妻橋付近から紙製のひな人形に願い事を書いて隅田川に流します。護岸が高いため、滑り台を使ってひな人形を水面に浮かべます。

●開催日:2024年の開催情報は確認できていません
●時間:-
●場所:-
●関連サイト:江戸流しびな|台東区
※編集部しらべ

おもな「曲水の宴」の行事

現代の曲水の宴も、参加する歌人は衣冠装束や十二単など平安時代の衣装を着て参加します。平安時代の優雅なときを感じられるので、ぜひ観覧してみたいですね。

【福岡県太宰府市】太宰府天満宮の曲水の宴

太宰府天満宮・曲水の宴

太宰府天満宮の曲水の宴(写真提供:太宰府天満宮)

太宰府天満宮の「曲水の庭」では、十二単や衣冠装束に身を包んだ人々による曲水の宴が年に1度開かれます。日時は例年3月第1日曜の13:00から。一般の参拝者は平安装束に身を包んだ参宴者の練り歩きを見ることができます。

●開催日:2024年3月3日(日) ※例年3月第1日曜
●時間:参道練り歩き 12:00/曲水の宴 13:00
●場所:太宰府天満宮 曲水の庭(文書館)・参道(福岡県太宰府市宰府4-7-1)
●公式サイト:曲水の宴|太宰府天満宮

【京都府京都市】城南宮の曲水の宴

城南宮平安の庭で行われる曲水の宴は、京都を代表する年中行事のひとつです。狩衣(かりぎぬ)や小袿(こうちき)を身に着けた7人の歌人が和歌を読み、詠んだ和歌は神様に奉納されます。4月29日15:00より開催。見学は事前申込制です。

●開催日:2024年4月29日(月祝)
●時間:15:00〜15:50
●場所:城南宮 神苑内・平安の庭(京都府京都市伏見区中島鳥羽離宮町7)
●公式サイト:曲水の宴・城南宮
※編集部しらべ

【京都府京都市】北野天満宮の曲水の宴

北野天満宮では3月上旬と11月3日の2回、曲水の宴が開催されます。菅原道真(すがわらのみちざね)の和魂漢才の精神を受け継ぎ、漢詩と和歌の両方を詠む和漢朗詠形式で行われます。観覧は有料。前売り券が発売されます。詳細は開催前になると公式サイトのお知らせページにアップされます。

●開催日:2024年3月9日(土)
●時間: 13:00~14:00
●場所:北野天満宮 紅梅殿前 船出の庭(京都府京都市上京区馬喰町)
●公式サイト:お知らせ一覧|北野天満宮
※編集部しらべ

【岩手県平泉町】毛越寺(もうつうじ)曲水の宴

毛越寺(もうつうじ)の曲水の宴は5月第4日曜に実施されます。浄土庭園の池に水を引くための遣水(やりみず)は平安時代の遺構で、復元されたのをきっかけに曲水の宴を開催。平安装束を身にまとった歌人たちが和歌を詠みます。観覧には入場料が必要です。

●開催日:2024年5月26日(日) ※例年5月第4日曜
●時間:-
●場所:毛越寺(岩手県平泉町平泉大沢58)
●関連サイト:毛越寺曲水の宴|ひらいずみナビ
※編集部しらべ

毛越寺・曲水の宴

毛越寺曲水の宴(写真提供:公益財団法人 岩手県観光協会)

【鹿児島県鹿児島市】仙巌園(せんがんえん)の曲水の宴

九州でも随一の景勝地・仙巌園。鹿児島藩主であった島津家の別邸として、江戸時代の初期に御殿と庭園が築かれました。竹林や神社もある美しい庭園の先には、雄々しい桜島の絶景が広がります。毎年4月上旬になると「曲水の庭」で「曲水の宴」が催されます。

●開催日:2024年4月7日(日)
●時間:13:30~14:15
●場所:仙巌園 曲水の庭(鹿児島県鹿児島市吉野町9700-1)
●公式サイト:曲水の宴|名勝 仙巌園 鹿児島
※編集部しらべ

仙巌園の曲水の宴

仙巌園の曲水の宴(写真協力:公益社団法人 鹿児島県観光連盟)

おわりに

流しびなは平安時代の曲水の宴と、子どものけがれを移した人形を流す風習が合わさった神事です。現代では様々な願いを人形と一緒に流し、神様に祈るようになりました。桃の節句にはひな人形を飾るだけでなく、流しびなを体験してみるのも風情がありますね。

Text:Hanae Yamashiro Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA

参考:
辰巳 渚・文 運田ななえ・絵『「親のことば」で伝えたい 家族で楽しむ25の年中行事』(岩崎書店)
三越伊勢丹『三越伊勢丹 日本の年中行事 暮らしアルバム』(マガジンハウス)
福田アジオ・菊池健策・山崎裕子・常光 徹・福原敏男『知っておきたい 日本の年中行事事典』(吉川弘文館)
中西弘樹『日本人は植物をどう利用してきたか』(岩波ジュニア新書)
岡田芳朗・松井吉昭『年中行事読本』(創元社)
コトバンク
ほか